今回は、真空管アンプのB電源として用いる200V昇圧コンバータの改造についてご紹介します。
真空管アンプのB電源をDCDCコンバータでつくる
パワー不足の昇圧回路
先日、真空管アンプの作り方が載った書籍を購入しまして、こちらを参考に6BM8シングルステレオアンプを作っているところです。
この書籍の回路図にはそのまま従わずに、一部アレンジを加えております。
それは電源をDCDCコンバータにするということ。
前回の記事を是非ご覧ください。
前回の記事ではニキシー管時計で使用した200V昇圧電源を使っていましたが、こちらはパワー不足の様で負荷につないだとたんに電圧が著しく降下しました。電源回路中のインダクタも鳴き出します。
動作が確認できた昇圧回路の情報
さて、動かぬ昇圧回路をどうしようかと考えていたところ、パワーが出せそうなDCDC昇圧コンバータの情報をみつけました。
下記の記事です。
貴重な情報に大変感謝致します。
こちらの記事では、既成品のDCDC昇圧コンバータ基板を改造し、パワーを出せる200V昇圧電源を作り、真空管アンプに使用するということが記載されています。
ACアダプターからDC12Vを入れるとDC200Vが出力される昇圧回路です。
さっそく試してみるため同じ電源モジュールを探したところ、Amazonで販売されておりました。物は試しと購入です。(※タイミングによっては下記商品が売り切れている恐れがありますので、適宜Amazonの方をご確認ください。)
基板の改造
では、本題の基板の改造についてご紹介します。
改造する基板の調査
基本的には前述のサイトに従って改造を行います。回路図もこちらのサイトに記載されています。
このため、記載のとおりに改造を行えば動くものができます。
しかし、ロットによる基板や部品等の違いがありそうなので、改造を行う前に自分の方でも基板に関する情報を得たいと思いまして、改造の元になるDCDCコンバータ基板について調べました。
探してみたところ、このDCDCコンバータ基板は回路図等の情報があまりなく、海外のサイトなども見て回ってそれらしいものを探しました。
海外サイトで見つけたものがこちらになります。
こちらのサイトを参考にしながら、自分で基板のパターンをみて回路図に起こしました。
※訂正:上記回路図はU1のGND端子が未接続だったため、訂正しました。訂正版を下に示します。
訂正箇所を赤丸で囲んでいます。(2018/09/04)
抵抗値については測定できますが、CとLは測定器がないため上記サイトを参考に入力しました。
基板改造のポイント
では、具体的な改造のポイントについてご紹介します。
※【注意】
この基板の改造は出力電圧が高いため感電の危険が伴います。
また、基板パターンのカットを行いますので、電気に関する知識を有していない方、改造に関わる十分な技能を有していない方は改造を避けてください。
全ての行為は自己責任にて行ってください。
改造にあたり、使用する部品は全て秋月電子通商で購入可能なものを使用しています。
また、ここで記載している部品のRef Noは、上記の回路図のものです。
- FET(Q2)の変更
- ダイオード(D1)の変更
- インダクタ(L1)の変更
- 出力部電解コンデンサ(C5)の変更
- 出力電圧調整フィードバック回路部のパターンカット
- ボリューム抵抗(VR1)の中点パターンカット
- 出力電圧調整フィードバック回路部の分圧抵抗の変更
- LED(D2)の削除
※下の回路図についてはU1のGNDが未接続です(未訂正)。参考にされる場合はご注意下さい。(2018/09/04)
では、各ポイントについてご説明します。
FETの変更
もともと実装されているFETは「STP80NF70」というものですが、これでは耐電圧が足りないため変更します。
変更するFETの候補としては「TK10A60D S5Q」です。
ダイオードの変更
出力部のダイオードは「STPS2045CT」が実装されていますが、こちらも耐電圧が足りないため変更します。
変更するダイオードの候補としては、「F12C40C」です。
カソードコモンの2回路入ですので、そのまま置き換えられます。
インダクタの変更
もとの基板には大きなインダクタが載っておりますが、こちらも変更します。
こちらの候補は、上記の真空管アンプ用 昇圧型DC-DCコンバータモジュール基板改造 – TENTEC電子工作メモ帳を参考にさせていただきまして、220μHのものを使用します。
候補は「LHL13NB221K」です。
出力部電解コンデンサの変更
出力部の電解コンデンサも耐電圧が足りませんので、変更します。
候補は「400PX22MEFC12.5X20」です。
出力電圧調整フィードバック回路部及びVR中点のパターンカット
出力電圧を調整するためのフィードバック経路の回路に変更を加えるため、出力からVRにつながる経路と中点のパターンをパターンカットします。
写真に示す位置のパターン(銅箔)をカッター等を使用して剥がします。
出力電圧調整フィードバック回路部の分圧抵抗の変更
出力電圧200Vにあわせて分圧抵抗の値を変更します。
参考元のサイトでは可変抵抗を1kΩに変更していますが、自分の場合は横着しまして10kΩのまま使用しています。
VRの実装位置はそのままで、接続のみを変更します。
その他チップ抵抗の2.94kΩと1kΩを取り外しまして、これを330kΩと3.3kΩに交換します。
この場合は出力電圧範囲が64.5V ~ 260.1Vになる計算です。
(実際に概ねこの電圧値が出力されることを確認しました。)
作業の様子を示します。
LEDの削除
LEDはこのままでは過電流となりますので、不必要の場合は取り外します。
(訂正)抵抗が30kなので、過電流にはならないと思われます。
必要な場合は抵抗値を調整します。
改造品の完成
サクッとパターンをカットして、部品を載せ替えるだけで200Vの昇圧回路が得られます。
入力 : DC12V
出力 : DC200V
目標電力 : 30W
完成した基板はこの様な感じ。
しっかりとした200Vが出力され、無事にDCDCコンバータによる真空管のB電源を得られました。
さて、問題となる電力ですが、負荷試験が未実施のために確かなことがわかっておりません。
今後セメント抵抗などで試験用の負荷を作って評価を行いたいと思います。
目標は30Wです。
現状は真空管アンプのB電源として安定していそうでしたので、この用途には問題ないと予想しています。
改めまして、参考にさせていただいた下記サイトに感謝致します。
改造に伴う実験
改造にあたって実験を行いまして、そこでみられた不具合等をご紹介します。
パターンをカットしなくてもOK?
回路としては分圧抵抗に生じる電圧値をみているので、ここの分圧抵抗の値が正しければ期待される動きをするはずです。
このことを考えると、抵抗値さえ正しければいいのでパターンカットをしなくても抵抗を交換すると良いように思えます。
ということで、実験を行いました。
結果としては、うまく動きませんでした。昇圧はしているがノイズが生じるといった結果になりました。
実験パターン 1
元の基板に実装されている1kΩをそのまま利用することを考えまして、2.94kΩを74.8kΩ(60k + 6.8k)に交換するだけで、パターンカットも無いという構成です。
この場合、出力電圧が189.5V ~ 212.0Vになることを想定しています。
この構成で出力実験を行ったところ、出力電圧値は得られるのですが、負荷が無い状態でもコイルから「カチカチカチカチ」とノイズが聞こえてきます。電源そのものから耳に聞こえるほどのノイズが出ているのはNGです。
ここでインダクタの値を手持ちの470μHに替えてみましたが、改善しませんでした。
実験パターン 2
先程の構成の1kΩも替えまして1kΩを3.3kΩに、2.94kΩを330kΩに交換します。
この場合、64.5V ~ 260.1Vになることを想定います。
この構成で実験を行ったところ、実験パターン 1と同様にノイズが聞こえました。
実験パターン 3
これはパターンカットの方法です。この記事の本題で紹介しているものになります。
実験パターン 1,2を行ってノイズが聞こえることを確認してから、最終的にパターンをカットする方法を行いました。
結果としてノイズが聞こえなくなりました。
おそらく実験1,2ではフィードバック経路のパターンがよろしくないのだと思われます。
アートワークの資料は無いので特に確認は行っておりませんが、小さい基板のフィードバックの経路でここまで変わるのかと驚きました。
多くの基板で実験しているわけではないので確かなことは言えませんが、結論としてはパターンカットを行った方が出力が安定しそうです。
ファストリカバリダイオードを使いましょう
基板の改造を行ったとき、当初回路が正しく動かずに困りました。
症状としてはFETに過電流が流れて発熱し、出力電圧が入力電圧と等しくなりました。
部品が壊れていないかと探ると、出力部のダイオードが壊れていました。
ショートモードで壊れていました。
このとき使ったダイオードは整流用のダイオードでして、単純に許容電流と耐電圧のみ見ていました。
しかし、スイッチング電源として使う場合に問題となるのが、ダイオードの逆回復時間という性能です。
これが遅いと損失になるわけですが、遅いダイオードだったことに加えて壊れてしまったわけです。
そこでファストリカバリダイオードとして上記のF12C40Cを使ったところ、見事動いたわけです。
動いたものをもう一度整流ダイオードに戻して実験してみると、FETは発熱で自分がくっついているハンダをも溶かすほど。
FETは基板表面に仮付で実験していたもので、自分の発熱でハンダを溶かし、基板から落ち、部屋の絨毯を見事焦がしました。
電源にはファストリカバリダイオードを使いましょう。
以上、真空管アンプのB電源に使うための昇圧DCDCコンバータ基板の改造についてご紹介しました。
電源自体の評価をまだしっかりと行えておりませんが、アンプの電源としては問題はなさそうだと見ておりますので、こちらの電源で進めていきたいと思っています。
評価を行った際は追記したいと思います。
それでは、またよろしくお願い致します。
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